魚を釣って締めずにバケツやクーラーで暴れながら死んだ魚は、腐敗を早めてしまいます。
それは血液が身体に回ってしまい、暴れて身やけ・身割れをおこし、死後硬直が早まるからです。
美味しい魚を仕立てる知識
釣った後暴れて死んだ魚がまずくなる理由
暴れて死んだ魚がまずくなる理由の前に、魚が死んだ後、どのようなことが魚の中で起きているかご存知でしょうか?
生物的に見る魚の死後から熟成、腐敗の流れ
1.活動
↓
2.死後硬直(死後数十分から数時間で始まる)
↓
3.熟成(旨味が魚体に浸透する)
↓
4.腐敗
水中で泳いでいた魚が水揚げ・釣り上げられて死ぬと、死後数十分から数時間で「死後硬直」が始まります。
その後、旨味が魚体に浸透する「熟成」が行われ、熟成のピークをすぎると「腐敗」していきます。
少し詳しく説明すると、魚体の中では次のような変化が起きています。
化学的に見る魚の死後から熟成、腐敗の流れ
1.ATP(アデノシン三リン酸)
↓
2.ADP(アデノシン二リン酸)
↓
3.IMP(イノシン酸)
↓
4.イノシン(HxR)
↓
5.ヒポキサンチン(Hx)
死後硬直(死後数十分から数時間で始まる)
1,2:死後、酵素の作用で魚体が持つエネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)がADP(アデノシン二リン酸)に分解される時にエネルギーを放出し、死後硬直と同時に旨味成分のIMP(イノシン酸)が作られる。
熟成(旨味が魚体に浸透する)
3,死後硬直が解けて身が柔らかくなっていく過程で旨味成分のIMP(イノシン酸)の数値が最高になる。
【腐敗】
4,5,鮮度低下時に増える苦味成分をもつ成分が増え魚体の腐敗が始まる。
暴れた魚がまずくなる理由
適切な処置をされずに暴れて死んだ魚は、死ぬまでの間に旨味成分を作る元となるATP(アデノシン三リン酸)が失われてしまいます。
釣ってそのままクーラーに入れて暴れて死んだ魚の身が固まっているのは死後硬直している状態です。
(暴れて死んだ魚はATPが減少して、筋肉中のタンパク質が結合して筋肉が収縮して柔軟性を失い硬くなります)
(要は魚体に酸素が供給されなくなるから硬くなってしまうということです)
そういった魚は、熟成しても魚に旨味が乗らないどころか、死後硬直~腐敗という鮮度悪化が早まってしまいます。
「後で野締めで処理すれば問題ない」という意見もありますが、可能な限り釣ったその場で脳締め・神経締めすることをおすすめします。
https://sakana-japan.com/tighten-distinction/
活け締め・野締め・脳締め・神経締めの違いとその方法はこちら
用語解説
ATP(アデノシン三リン酸)
筋肉を動かすエネルギー源となる物質
生きている間は呼吸により補給される
死ぬとATPの供給はなくなる
ADP(アデノシン二リン酸)
ATPが持つリン酸が1つ分離されて作られる物質
→この時に生じるエネルギーを利用して運動される
→ADPにリン酸が1つ結合されることでATPになり、エネルギーを保存できる
AMP(アデニル酸)
魚介類が持つうま味成分の主体
→身やけ・やけ肉の個体はアデニル酸が減少している
IMP(イノシン酸)
ATPが分解されて作られる旨味成分
→ATPが多いほど旨味成分が多くなる
→野締めなど魚を暴れさせてで苦悶死さなせた場合、死ぬまでの間にエネルギー(ATP)を消費してしまうため、旨味成分のIMPも減少してしまいます。
魚の筋肉が死後硬直した際が最高値
HxR(イノシン)
IMPが変化して作られる物質
鮮度低下時に増える成分
Hx(ヒポキサンチン)
プリン体を構成するプリン塩基の一つ
苦味成分をもつため、食味を下げる原因になる
K値
魚の鮮度を測定する方法として利用される数値(ATPおよびATP分解生成物全量に対するイノシン、ヒポキサンチンの量の割合)
低いほど鮮度が良く、高いほど鮮度が悪い
K値が20%以下:刺身として食用可能
K値が40%程度:寿司ネタとして食用可能
K値が60%以下:焼き魚として食用可能
K値が80%以上:腐敗により食用不可能